メジャーリーグ公式サイト「mlb.com」は法律事務所のドメインだった

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人知の及ばぬ32ビットの空間に、
名前がついたその日から、
見知らぬあなたと、見知らぬあなたに、
ウェブの糸がつながった
ドメインの織りなす運命を解き明かす
あらたな世界の扉が開かれる
それが、あなたの知らないドメインの.世界

 

 

メジャーリーグ公式サイト「mlb.com」は法律事務所のドメインだったことを、ご存知ですか?

 

メジャーリーグ公式サイトとしておなじみの「mlb.com」。しかし、この短く覚えやすい
ドメインが、当初からMLB(Major League Baseball)のものだったわけではありません。
実は1994年、インターネット黎明期に米国の大手法律事務所「Morgan, Lewis & Bockius LLP」
が先に取得していたのです。

 

「Morgan, Lewis & Bockius」の頭文字を並べると「MLB」です。彼らにとって「mlb.com」は
ごく自然な社名略称ドメインでした。当時、まだドメイン名の商標権やブランド戦略がいま
ほど厳密に扱われていなかったこともあり、野球のメジャーリーグと同じ頭文字でも特に
問題視されることはありませんでした。

 

長らく「majorleaguebaseball.com」を公式ドメインとして利用していたMLBですが、
1999年末、正式に「mlb.com」取得のための交渉を開始します。背景には大きく3つの要因が
ありました。

 

1.インターネット利用の急拡大
1998年〜1999年にかけて米国ではブロードバンド普及率が急上昇。
野球ファンのオンライン観戦・ニュース利用が飛躍的に伸び、短く覚えやすいURLへの需要
が一気に高まりました。

 

2.MLB公式サイトの戦略転換
この時期、リーグはデジタル部門「MLB Advanced Media(MLBAM)」の設立を準備しており、
動画配信やチケット販売など本格的なオンライン事業を展開する方針が固まっていました。
その入口となるドメインのブランド力強化は急務だったのです。

 

3.商標・ブランド保護の観点
ネット上での商標争い(いわゆるサイバースクワッティング)が増えていたこともあり、
「mlb.com」を第三者が転売目的で入手するリスクを排除したいという思惑もありました。

 

こうした背景から、1999年末にMorgan, Lewis & Bockius LLPとの正式な交渉を開始。翌2000年
に同事務所からドメインの移管について、合意を得ることができました。旧来の
「majorleaguebaseball.com」はリダイレクトとして残しつつ、公式サイトのメインを
「mlb.com」に切り替えました。

 

このとき世間の注目を集めたのは、「いくらで譲渡されたのか?」です。
公的に金額が公表された記録は存在しません。しかし、米国の法律系メディアやSABR
(Society for American Baseball Research)の記事によると、Morgan, Lewis & Bockius LLPがMLB
に「mlb.com」を無償で譲渡した、という説が最も有力とされています。実際、当時の
ニュースや法律誌では「金銭のやり取りはなかった」「at no monetary cost」といった表現が
散見されます。つまり、単なる売買ではなく、友好的な合意による移管だった可能性が高い
のです。

 

なお、かつて「mlb.com」を所有していたMorgan, Lewis & Bockius LLPは、現在は公式ウェブ
サイトを「morganlewis.com」としています。いまや「mlb.com」は世界中の野球ファンが
最初に訪れる“入口”となり、ブランド価値は計り知れません。ドメイン一つが、これほど
大きなビジネス上の意味を持つことを、20年以上前から示していたエピソードと言えるでしょう。

 

参考
The Law Firm and the League: Morgan, Lewis and Bockius LLP, Major League Baseball, and MLB.com
WIKIPEDIA – MLB Advanced Media
SPORTS ON THE WEB: MLB SECURES DOMAIN RIGHTS TO MLB.COM
In 1994, law firm Morgan Lewis bought MLB.com, later given to pro baseball
The Biggest Media Company You’ve Never Heard Of

 

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