“なんちゃってドメイン”がネットを混乱させた

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人知の及ばぬ32ビットの空間に、
名前がついたその日から、
見知らぬあなたと、見知らぬあなたに、
ウェブの糸がつながった
ドメインの織りなす運命を解き明かす
あらたな世界の扉が開かれる
それが、あなたの知らないドメインの.世界

 

 

“なんちゃってドメイン”がネットを混乱させたことをご存知ですか?

 

その“なんちゃってドメイン”とは、「.bitnet」です。
1980年代に運用されていた学術ネットワーク「BITNET」では、「user@univ.bitnet」のよう
な形式でメールアドレスが使われていました。これはDNSとは無関係で、「メール配送ルー
ル上の識別子」として使われていたもの。つまり、BITNETという大学ネットワークの内部
向けメールアドレス表記にすぎず、正式なTLD(トップレベルドメイン)ではなかったのです。

 

しかし、当時はインターネット草創期。「.bitnet」を正式なドメインと勘違いしたトラブル
が続出しました。「user@univ.bitnet」を見たインターネットユーザーが、正式なドメイン
だと勘違いしてメールを送信。「.bitnet」はDNS上に存在しないドメインなので、当然
メールは宛先不明で戻ってきたり、メール送信エラーが多発しました。

 

メールが送れないことで、ネットワーク管理者も混乱します。「DNSの設定がおかしい」と
焦って「.bitnetのゾーンファイルがどこにあるのか?」と問い合わせたり、一部のメールゲ
ートウェイでは、「.bitnet」を問い合わせるDNSトラフィックが生まれ、その名前解決の失
敗がネットワーク障害ログに残る混乱もありました。

 

1980年代末から1990年代初頭ごろ、一部の学術関係者の間で「.bitnet」を正式なドメイン
として登録申請しようとした動きがありました。残念ながら、BITNET自体が中央管理型・
非インターネット的な構造であり、ドメイン名システムの哲学(分散・オープン)に合致し
ない、将来的にBITNETが消滅する可能性が高い、という理由でIANA(Internet Assigned
Numbers Authority)から却下されてしまいました。

 

“なんちゃってドメイン”なのに世界中の学術ユーザーに通用していた「.bitnet」は、インタ
ーネット草創期におけるプロトコル文化の違いが招いた、ユーモアと混乱の象徴として語り
継がれているのです。

 

参考
Britannica / BITNET
LIVINGINTERNET.COM / Internet Domain Names
Wikipedia / BITNET

 

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